2003.1.4.日本経済新聞に掲載されました

「昔、風邪をひいたら三つの 療法がありました。イチョウ切 りにした大根を漬け込んだ水あ めを食べる。熱い湯を絞ったタ オルに日本酒を湿らせ首に湿布 する。それに卵酒」
 大阪市阿倍野区にある豊下製菓(06・6719・445 8)の五代目杜長、豊下正良さ んは幼年時代を振り返る。大根とのどアメの取り合わせは、ご くありふれた情景の一つだっ た。そこで一ひねりしてみた。
 二〇〇二年秋に発売した伝統飴(あめ)野菜「田邊(たなべ) 大根のどあめ」「天王寺蕪(か ぶら)のどあめ」(いずれも二十粒二百円、または百グラム入り三百円)。最近脚光を浴びる浪速の伝統野菜を原料にした。
 「今の主流の青首大根と違って、昔の田邊大根は下ろしたら水気が少なく、ひりひりと辛いのでソバの薬味にもなった」
 そんな大根辛さと、土の香りを風味に残すため、配分と調合 には試行錯誤した。すり下ろし た大根を搾り汁とともに原料に混ぜる液体が多すぎると、成形がうまくいかないという。一方、大根系らしい白さと、つや出しにも手をかけた。
 口に含むと、なるほど懐かし いような、ひなびた味わいに加 え、舌を刺す辛みが一瞬広がる。
 原料野菜は河南町の農家に栽培してもらっている。豊下社長が参加している地域おこし活動 の仲間でもあるという。
 明治五年(一八七二年)の創 業。「代々、新しもの好きだっ た」。昭知七、八年頃、三代目がポテトチップスを早くも商品化。造作もなく作れたが、流通・輸送環境が未熟だった。缶に入れて出荷したら、消費者が食べるころ、こなごなに崩れて いた。日本にも来航した飛行船 にちなみ「ツェッペリン」と名付けてフットボール形のキャン デーも作った。
 試行錯誤をいとわない進取の気性が、のどあめにも生きた。 菓子店のほか、本社でも小売り している。JR美章園駅から徒歩三分。工揚のみで店舗はない。 土日定休。(岡松卓也)