大阪府立食とみどりの総合センター
 森下正博教授

「うわっ、長・い」。なにわの伝統野菜のひとつ・毛馬胡瓜を求めて、ま
ず訪ねたのは、羽曳野市にある大阪府立食とみどりの総合技術センター。栽
培試験中のハウスでは、なんと体調30センチはありそうなキュウリがあっちにもこっちにも・・・。
白っぽい緑色でイボイボが黒く、かじると香りと歯ごたえがしっかりあって、かすかな苦み
が口中に広がっていく。普段馴染みの
あるキュウリとは違いますね?「スーパーに一年中並んでる野莱は色も形もきれい
やけど、本来、野、菜は旬の時季にできて生長具合も形もちまちなんです。人問
と同じで、生き物やからアバウトなんですよ」。
野莱博士の異名を持つ同センターの森下正博さんが穏やかに語る。
 その昔、天下の台所といわれた大阪は全国から食材が集まる一方、野莱の栽培にも適した土地柄だった。天保7年の「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」の名物名産略記には毛馬胡瓜、天王寺蕪、木津干瓢、鳥飼茄子…などが数々登場している。しかし戦後、大量生産や安定供給が優先され、生産効率の悪い昔ながらの野菜は店頭から姿を消した。
「でもね、エスキモーの人が新鮮な生の肉を食べたり、沖縄の人が苦瓜や豚肉をよく食べたりするでしょ。その土地の気侯風土に合った食生活が身体を作ってくれるんですよ。だから住んでる土地で出来た旬の野菜が“今、食べたら身体に効きまっせー。”と土地の人間に教えてくれる。食べることは腹を
いっぱいにするためだけじゃないんです。なにわ野菜をきっかけに、食べることそのものの意味も考えてほしいですね」。
香りや歯触り、甘味や苦味…それぞれの持ち味を主張する伝統野莱は「さすが、なにわの野菜やわあ」。夏野菜が美味しいこの時季、なにわ野菜の味と魅力、味わう方法に迫ってみよう。

本物の昧、お届けします
浪速魚菜を守る含


この春、おそらく全国で初めてという地野菜専門雑誌『浮瀬』を発刊した浪速魚菜を守る会。「なにわ野菜は個性があるでしょう?・強烈な味と深み、とでもいうんでしょうか」とその味に惚れ込むのは実行委員長の笹井良隆さんだ。もともと同会は4年前に発足し、料理を楽しみながら大阪の歴史や食について学ぶ催しを行ってきたが、昨年、名称を変更。なにわ野菜の生産農家を物心両面から支援する会に、と再スタートしたばかりだ。
「なにわ野莱を育てている農家はまだまだ少なく、その多くが兼業農家。そこで年会費1万円を納めた方へ野菜を宅配するサービスを始めました。契約栽培のよ勿な形を取ることで農家さんに安心して野莱作りに励んでもらえますし、利用者の皆さんにも確実に本物の味を知ってもらえます」。年会費2万円の正会員になると同様の宅配の他、生産農家や料理人が集うイベント・浪速魚莱を食べよう会の優待参加チケットなどが付く。笹井さんいわく「昔の農家は外国から入ってきた野菜でも大阪人の口に合うようにと改良して育て上げたんです。そのパワーはすごい!」。こんなところにも食に厳しい大阪人魂がうかがえる。

形と持ち昧生かすなにわ野菜の漬物
四天王寺西むら

四天王寺参道脇の店で約2年前から胡瓜などの糠漬けや塩漬け、粕漬けが季節ごとに並ぶ(300円〜)。「天王寺蕪は見た目は不揃いやけど歯ごたえがいい。大阪しろなはきれいな薄緑でシャキシャキでしょ?・収穫した日にすぐ漬け込んでるんですよ」と店主の西村孝さん。生産者の顔が見えるなにわ野莱の特性と形を生かし、添加物・保存料はなし。天候や育ち具合によって、予定通りの野莱の入荷ができない時もあが「まあ、乗り掛かった船ですからねえ(笑い)。懐かしい味やと待っててくれはる方がいらっしゃるのがなにより嬉しいです」と目尻が下がる。

ほのかに広がる野菜昧
「なにわの伝統飴野菜

豊下製菓

「ああ、食べるのが勿体ない!」と思うぽど小さな7種類の野莱飴のなんと可愛いらしいこと。勝間南瓜は黄緑と緑が絶妙の色合い。毛馬胡瓜には芥子の実をくっつけ、特有のイボイボを表現している。なんとも細かい作業ですね?「ええ、160度に熱した飴の中になにわ野莱の絞り汁を入れ、冷やしてから形を作るんですよ。本当は飴に水分を入れるのはタブーなんですが、なんとか野莱の味を出したくて…。カリッと仕上がるよう随分工夫しました」。開発当時を思いだし、豊下製菓社長・豊下正良さんは目を輝かせる。
 明治5年(1872年)創業の老舗の五代目として35年間、飴作りに打ち込んできたが、「ハンパじゃないなにわ野菜の美味しさをぜひ、多くの人に知ってほしくて」という熱意が、貴重な名物飴を生み出した。甘さとともに野菜の味がほ
のかに広がる優しい飴は一袋500円。
ほかに天王寺蕪やモ篤胡瓜ののど飴なども。通信販売あり。



                                                             C・Work 2003/8/No.194より抜粋