十八屋弥兵衛のひとりごと vol.6

-なにわの伝統野菜 その四-

飴のうんちくや日記の紹介
【毛馬胡瓜】


大阪に住む者なら誰でもが知っている毛馬(けま)の閘門(こうもん)。この辺り、江戸時代には毛馬村と言った。現在の大阪市都島区毛馬町である。ここで作られていた胡瓜を毛馬胡瓜といっていた。が起源とされる半白系の黒いぼきゅうりである。太くて短いもの、細くて長いものなど形は様々で、文久三年(1863)の「大阪産物名物大略」には、果長が約30cmで果梗部は淡緑色であるが、果長部よりの三分の二は淡緑白色となり、収穫適期には多少黄色気味となる、との記載がある。果実は歯切れが良く、奈良漬けに重宝され、時には他品種の二倍の高値になることもあったそうである。昭和十年代には、原種そのものはほとんど栽培されなくなったが、品質が良いことから、これを花粉親とした一代雑種の大仙節成二号と大仙毛馬一号(二号毛馬)を交配したものや、大仙節成四号と大仙毛馬一号(四号毛馬)を交配したものが育成され、原種の大仙毛馬にとって代わっていった。原種の毛馬胡瓜は、食べた時の歯触りがたいそうパリパリとして、胡瓜特有の香りがすばらしい。胡瓜の切り落とした蔕を摺り合わせ、苦味を抜く事をしなくなった世代には実感が湧かないだろうが、この苦味も胡瓜の味のうち。この果実の肩部の苦味はククルビタシンという物質で、薬効があると言われている。
さて、どう料理したらいいかって?熟胡瓜なら冬瓜でするように、海老とのあんかけが美味。歯当たりのいい糠漬や奈良漬も捨てがたい。酢の物では鱧の皮、若布、鮹、鰻等とのザクザクはなにわの夏のお番菜(日常のおかずのこと)。二杯酢か三杯酢かはお好み次第。変わったところでは、胡麻クリ−ム和えや寒天寄せもいいですよ。ちなみに私の定番はもぎたてに粗塩を擦り込んでそのまま囓るのです。瑞々しくて、胡瓜らしいほのかな苦味と香りが懐かしく、シャキッとした歯あたりが何とも言えない、夕立の後の虹のような味は絶品です。ほんとに復権が待ち遠しい夏野菜です。


十八屋弥兵衛 謹白